研究概要 |
フランス近世・近代文学における歴史的断絶の表象をめぐる本研究は,当初,フランス革命を貴族として経験した大作家シャトーブリアンの文学的実践を中心に組織される予定であったが,18世紀文学の豊かな土壌を予備的に踏査する過程で,わたしは歴史的断絶の文学的表象という歴史と文学の両方にまたがる主題を十分に把握するためには,シャトーブリアン以前に論じるべき重要な作家と作品が少なからず存在することに驚愕した.それゆえ,本研究は,シャトーブリアンの文学世界それ自体を論じるにいたることなく終了したが,研究の成果は,ヴォルテールの重要な小説『カンディード』(1759)の新たな読解と,モーツァルトのオペラ《フィガロの結婚》(1786)およびそのもとになったボーマルシェの戯曲作品『フィガロの結婚』(1784)の独自の解釈というかたちで結実したことを強調しておきたい.『カンディード』も《フィガロの結婚Le Nozze di Figaro》・『フィガロの結婚Le Mariage de Figaro』も,実は,模範的な方法によって,近代世界の創出をうながした巨大な歴史的転換としての「啓蒙」を表象した作品なのである.この事実を,わたしは,今回の文学的テクストと音楽的テクストによりそった分析によって,明らかにすることができたと自負している,
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