研究課題/領域番号 |
16520154
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
研究分野 |
ヨーロッパ語系文学
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
三木 賀雄 神戸大学, 国際コミュニケーションセンター, 教授 (00209735)
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研究期間 (年度) |
2004 – 2005
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研究課題ステータス |
完了 (2005年度)
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配分額 *注記 |
2,200千円 (直接経費: 2,200千円)
2005年度: 600千円 (直接経費: 600千円)
2004年度: 1,600千円 (直接経費: 1,600千円)
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キーワード | 中世ヨーロッパ / 海事 / ノルマン / フランス文学 / 中世 / 北西ヨーロッパ海域 / ヴァース / アレグロ・ノルマン |
研究概要 |
中世ヨーロッパの人々にとって海は恐怖の空間であった。しかし12世紀になると、人々の関心は次第に海に向かい始める。本研究では、年代記や文学作品を対象に、中世の人々の海に対する姿勢の変化を調査し、人間と海との普遍的な関わりについて考察をおこなった。特に考察の中心に据えたのはヴァースであった。ジャージィ島に生まれ、ヘンリ2世に仕えたこの宮廷詩人は、海と航海についての貴重な証言を数多く残しているからである。そこで、まずヴァースの作品における海事表現を収集し、データベース化し、分析することから作業を始めた。結果としてヴァースの時代の船と航海の実態についての知識を得ることができた。当時は政治的な理由から大量輸送が求められ、そのために帆走への依存度が高まっていたという。また政治的、社会的な要請から、無謀な荒天下の航海や風上への帆走が敢行されていたともいう。当然、海難事故が多発する。その一例として、ヴァースが語る<白い船>の遭難事故をとりあげ、中世の航海の危険性について考察をおこなった。次に海が物語の要諦をなしているトリスタン物語の数種の異本を分析し、作者たちの海に対する考え方を検証した。その結果、流布本系写本は海を自己解放の場として利用し、騎士道物語本系写本は海を神の法廷と規定し、内省による自己の昇華のための空間として用いていることが理解できた。また、マリー・ド・フランスは作品『エリデュック』において、海を苛斂誅求な神の審判の場から、聖母マリアと諸聖人による救済の場へと置きかえてみせている。このように、いずれの場合においても、海はもはや恐怖の対象というだけでなく、自己実現に向けて乗り越えるべき試練の場として理解されている。恐怖の海は豊饒の海につながり、苦難の航海は夢の実現へと人々を導く。このような海の両義性に対する深い認識と理解が、人々を海へ立ち向かわせる契機となっていたと結論できる。
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