研究課題
基盤研究(C)
本研究は、1980年代以降のタイ映画とそれまでの国民映画の比較を通じて、現代タイにおける大衆文化の変容の状況を解明することを目的とした。以上の構想に基づき、平成16年度はまず研究の基盤となる通史的理解のために、タイが近代化を開始した時点ですぐにスタートしたタイ映画の100年史(1890年代〜1980年代半ばまで)をまとめた。つぎに、1930年代〜70年代までのタイ国民映画に現れた民族のメンタリティー、規範意識の再生産とそれに先行する大衆演劇、宗教説話、民間伝承との関連を中心に関連資料の収集と分析を行った。資料収集は主にタイ国立フィルム財団の協力を得て実施し、その結果、戦前期の貴重な国策映画『白象王』のコピーを入手したり、1950年代ピブンソンクラーム首相時代の、入手が難しい数点の映画(『地獄のホテル』、『闇の天国』など)の分析を通じてタイ伝統文化とは断絶したところでモダニズムが導入された時代があったことが判明した。このモダニズムの強調は研究計画当初には予見できなかった知見であり、軍事独裁下といえども、タイの近代化をめぐってピブンソンクラームに代表される漸進的な西欧型民主主義志向と、その後のサリットに代表される先祖返り的なパトロン・クライアント関係に基づく独裁政治の2つの相対する路線が当時のタイ・ローカル映画に如実に反映されていることが解明された。平成17年度は、前年度で得た知見と映像資料、関連文献を元に、主に1960年代から1980年代までのタイ映画の内、大衆演劇をはじめとするタイの伝統的価値意識の変容を中心に研究を進めた。その結果、研究報告書の「第3章チュート・ソンスィー監督映画の分析」の結論にあるように、1980年代前後のタイ映画では、急激な経済・社会発展によって失われた伝統文化と農村社会の慣習や道徳的価値観へのノスタルジーとして表象され、都市を含む大衆によって受容されたことが明らかとなった。ところで、2年にわたる上記の研究を進める過程で、代表者は、近代以降100年の歴史を有するタイ映画には、国王・仏教・民衆の三位一体の国体イメージを植え付けようとするナショナリズムが、立憲革命、第二次世界大戦、軍部独裁政治、民主革命、急激な経済成長といった歴史的転換の度に色濃く反映されていることが分かり、今後の研究課題とすることができた。
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すべて 雑誌論文 (6件)
東京外大東南アジア学 12
ページ: 1-14
40015420989
Southeast Asian Studies, Tokyo University of Foreign Studies No.12
東京外国語大学論集 72
ページ: 157-180
Area and Culture, Tokyo University of Foreign Studies No.72
ページ: 157-170
東京外大東南アジア学 10
ページ: 1-19
Southeast Asian Studies, Tokyo University of Foreign Studies No.10