中国、特に唐代の通俗類書の概況を明らかにすることを目的として、敦煌文献に残る「通俗類書」を対象に調査研究をおこなった。まず、通俗類書の研究に先立ち、歴代の書目の中から「類書」の流れをたどった。「類書」とは、既存の文献を「類」によって編集整理するという編集形態によって名づけられた語であり、唐代になってはじめて書目に登場したこと、そして唐代が類書の発展期であったことを明らかにした。このことについては報告書研究篇第一章に記述した。 次に敦煌類書の工具書とでもいうべき王三慶編『敦煌類書』に収録されている類書について、先行研究、鈔本番号を整理した一覧表を作成して研究の便を図り、分類項目を持つ類書については、その項目とそこに記述される人名、書名をデータベース化して類書間の比較対照を可能にした。これらのリストは報告書資料篇に載せてある。 個別の敦煌類書の調査として、「雑抄」と題される写本を取り上げた。「雑抄」は当時の敦煌の学校で教材として用いられていた文献で、その内容は、歴史・地理・学術・生活知識・歳時などの一般常識、徳・忍といった道徳規範、文学作品・事物の由来などの学生としての基礎知識、格言・標語を集めたエチケット集から構成されていることがわかった。「雑抄」は総合的な内容を持つ教材であり、当時の民間の文化水準がそこに示され、学校が類書の形式による教材を用いて文化の伝達に努めていたことがわかる。このような類書が学校の場から生活の場へ移され、後代の「日用類書」の流れとなると指摘した。「雑抄」に関しては、報告書研究篇第三章で記述してある。
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