研究概要 |
1.ドイツ語やオランダ語では「ある人に笑いかける」という出来事を不変化詞動詞(anlachen/aanlachen)により表現できるが,英語では自動詞(laugh)+前置詞句(at NP)という構造を用いなければならない。この相違はSOV/SVOという基本語順の相違と相関している。2.ドイツ語とオランダ語には「ある人に笑いかける」を意味するzulachen/toelachenという不変化詞動詞もあるが,この場合の(与格)目的語はいわゆる「所有の与格」と分析するべきである。3.ドイツ語やオランダ語では「ある人にボールを投げる」という出来事を表現する場合,不変化詞動詞zuwerfen/toegooienを用いる必要がある。この場合の間接目的語もいわゆる所有の与格である。4.ドイツ語では「ある場所に急いでいく」という出来事を不変化詞動詞zueilenにより表現できるが,この動詞は与格目的語を持つ。これに対してオランダ語のtoesnellenは与格目的語を持てないが,この相違はいわゆる「低い与格」(low dative)を持っか否かという相違と相関している。5.ドイツ語ではden Wagen aufladen '1oad the car on'(車に何かを積む)やdas Glas eingieBen `pour the glass in'(グラスた何かを注ぐ)のようなauf'on'やein'in'を持つ不変化詞動詞が可能であるが,対応する英語は許されない。この相違は英語のin/onは出来事の「結果」のみを表わすのに対し,ドイツ語のein(in)-/auf-は結果のみならず,「経路」ないし「方向」も表しうることに起因する。6.ドイツ語と日本語のいわゆる移動様態動詞の相違のひとつは,動詞そのものの意味ではなく,前者が用いられた文には「結果的状態」という意味が含まれる点にある。
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