研究概要 |
本研究は,北西カフカース諸語に属するアブハズ語のテキストの分析と基礎語彙集の作成である。この作業にあたってはアブハズ語母語話者の協力を得た。特に基礎語彙集の動詞活用変化は,アブハズ語母語話者より蒐集した資料に全面的に基づいて記述・分析したものである。本研究報告書は二部より成っている。第1部は「アブハズ語テキストの分析」であり,神話テキスト1編と民話テキスト4編を分析・翻訳した。テキストのキリル文字表記に続いて,それを音韻表記で転写し,その各語にグロスを附け,文法分析を行っている。さらにテキストに現れる動詞複合体を詳細に分析した註も附し,全テキストを英語に翻訳している。また民話テキストにしばしば見られる小辞の働きを分析した論文も附した。第2部は「アブハズ語基礎語彙集」であり,これまでの科学研究費補助金によって行われた6回に亘る現地調査によって蒐集した資料を基にして,基本動詞の活用を中心に辞書形式に纏めたものである。特に動詞は、アクセントや母音シュワーの出没とともに現在形、アオリスト形,命令形(それらの三つの形は全てそれぞれの否定形も含む)の三つの形が必ず記述されている。特に重要語においては様々な派生形を含めて,その活用を網羅的にインフォーマント調査し、体系的に記述するよう試みた。また動詞接頭辞のスロット配置構造を記述し,各動詞の接頭辞がどのスロットに充填できるかを記述している。このような動詞の体系的な記述やスロット配置構造の記述は,斯学において初めての試みであろうと思われる。また補遺として、この語彙集に含まれるほぼ全ての動詞を語幹部分からアルファベット順に配列した「アブハズ語動詞の逆引き辞書」を附した。
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