研究概要 |
ミニマリスト・プログラムと呼ばれる生成文法理論の研究は、脳に内在する言語器官を特徴づける最適性とも言うべき性質を明らかにしつつある。ミニマリスト・プログラムが提供する研究上の指針には、(記述的装置のクラスを最小限にするよう求める)「最小設計」指針、および(演算の操作上の複雑性を縮小するよう求める)「単純計算」指針と呼びうるものがあるが、本研究では、「単純計算」指針に幾分焦点をおき、操作上の複雑性の縮小は言語器官の構造を決定する上で最も重要な因子であると想定した。この想定のもと、操作上の複雑性を大幅に縮小する分析、とりわけ循環的分析(Chomsky 2000,2001,2005,2006)と派生的分析(Epstein, et. al.1998, Epstein and Seely 2002,2006)を中心に検証し、(統語関係を決定する)統語システムから(音声・意味の解釈を決定する)解釈システムヘの出入力機構の解明を試みた。具体的には、厳密に規定された小さな単位の出入力関係が派生的かつ循環的に成立する可能性を提示し、さらにはその概念的根拠を統語システムの最適性という性質から導き出す議論を展開した。派生的かつ循環的に統語関係を生成する統語システムの研究はまだ始まったばかりではあるが、経験的にも大変興味深い分析を提出できる段階に入った。今後は、本研究の成果を踏まえ、厳密に規定された小さな単位で成立する出入力関係の分析を推し進め、派生的かつ循環的に保障される統語関係の性質を明らかにしていくなか、統語システムおよびその最適性に関する言語理論を構築していく。
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