研究概要 |
本研究では,英語母語話者による英語のイントネーションの知覚実態を,音調単位の区分,音調核音節の場所,音調の種類というイントネーション主要3要素を中心に調べた。この目的のため,英語を母語とする音声学者5人に参加してもらい,彼らの知覚実態を音響的に比較した。 結果として,彼らは常に同じように知覚しているわけではなく,特に文中で句読記号がないとその傾向が強いことが分かった。音調単位の境界を決める基準は,実際の例では必ずしも役立たないようである。副次的な韻律変化は異なって知覚されやすく,音声学者が音調核音節の位置と音調の種類を決める際に大きな影響を与える。特に1人の音声学者は音調単位を大きな塊として知覚している。相対的に静的なピッチ変化は,平坦調または頭部,つまり,音調核または非音調核として知覚されることがある。発話の一部が2つの音調単位に分割され,前の音調単位が下降調で終わり,次の音調単位の始まりで強勢のある音節のピッチが高いと,前音調単位の音調核音節の音調を下降調ではなく,下降上昇調と知覚する音声学者もいる。これは,人間の知覚は物理的現実と必ずしも一致しておらず,イントネーションは必ずしも時間の流れに正確に沿って知覚されているのではないことを示す好例と言えよう。イントネーション知覚の基本的違いは下降対上昇であるが,この両極性は必ずしも保障されるわけではない。明らかな解釈の誤りの場合もある。 知覚相違の理由には,プロの音声学者が韻律表記に従い読んでいる,音声学のテキストで用いられているスピーチ型と異なり,人々はプロのキャスターを含めて,理論通りには必ずしも話さないこと等が考えられよう。言語学的には英語のイントネーションが異なって知覚される理由を分析することで十分だろうが,教育学的には知覚相違があまり生じない,別の表記体系を確立する必要性があるだろう。
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