研究概要 |
Tamaoka, Sakai, Kawahara, Lim, Miyaoka & Koizumi(2005)は,5種類の文型について,正順とかき混ぜ文を比較する実験を行った。その結果,能動文,受動文,可能文において,文法関係の情報が統語の基底構造を決める主要な役割を果たしていることを実証した.次に,中国語を母語とする日本語学習者が,正順とかき混ぜ語順の能動文と可能文をどのように理解しているかを検討した(玉岡,2005).まず,文法テストを87名の日本語学習者に行い,91.7%以上の得点を得た24名を被験者として選択し,実験した.能動文の正順語順の方がかき混ぜ語順よりも速く,また正確に理解していることが観察された.この結果は,日本語母語話者と同じように,中国語を母語とする日本語学習者も,能動文の基底構造を構築して,かき混ぜ語順については空所補充解析による文理解を行っていることを示唆している.また,格助詞情報と主語・目的語の文法関係が食い違う可能文の正順とかき混ぜ語順を比較した(例えば,「高志にギリシャ文字が書けるだろうか」).その結果,可能文の正順とかき混ぜ語順の理解時間に違いはなく,スクランブル効果が観察されなかった.したがって,可能文の正順の基底構造が確立されておらず,空所補充解析は行われていないと思われる.さらに,母語でも語順が自由である韓国語とトルコ語の場合は,日本語の語順の違いが比較的容易に克服できるのではないかと思われる.まず,韓国語とトルコ語の二項および三項動詞を含む能動文を使って,日本語と同じようなかき混ぜ語順の影響があるかどうかを確かめた.その結果,韓国語およびトルコ語でもスクランブル効果を観察することができた.また,韓国語およびトルコ語を母語とする日本語学習者による日本語の処理においても,同様にスクランブル効果が観察された.
|