研究概要 |
新渡戸の構想した戦間期における国際秩序構想は,汎太平洋国際連盟(Pan Pacific League of Nations)と言い換えてもよい。その母体が汎太平洋連合(Pan Pacific Union)であり,さらに,国家間関係のいわば潤滑油として,民間団体である太平洋問題調査会(Institute of Pacific Relations)と考えていた。そして,国際連盟や太平洋問題調査会で新渡戸があえて触れることはなかったが,そうしたいわば表向きの団体を支える内面的,精神的な保証として,クリスチャン・インターナショナルが位置づけられており,日本においては,新渡戸と賀川の連携こそが,その核となるべきものであった。本研究では,新渡戸と賀川の連携の成立と,日本友和会(FOR)の活動を中心としたその具体的な運動を,まだ極めて不十分ではあるが素描できたと考えている。 その際,本研究が最初に掲げた問題,即ち新渡戸と賀川を主体とする平和運動が,他の主体といかなる関係を構築し得たのかという問題が重要である。とりわけ,当該期の平和運動は中国の諸主体との関係が大きな鍵になるが,本報告書ではNCC-ChinaとNCC-Japanの表面的な関係には言及できたものの,新渡戸と賀川の連携においては友和会が重要なポイントであり,中国における友和会の活動と日本との関係が明らかにされなければならない。これは今後の重要な研究課題である。 さらに,中国のクリスチャンが国民政府要路との結びつきをもち,中国の諸政策に影響力をもっていたことを若干確認できたが,この点についてもより具体的にしていく必要がある。そして,賀川の謝罪を基盤として,賀川らの平和運動に対する中国のクリスチャンの期待も確認できた。一方,日本における新渡戸と賀川の平和運動が,当時の排外主義的な世論の中で厳しい状況におかれていたことが確認できたが,他方で中国との連帯を求めるクリスチャンの姿も明らかになった。それが当時の政権や世論にどのような形で影響したのかを測定する必要がある。この点も残された重要な研究課題である。
|