研究概要 |
本研究は,近世社会における地域の人々の暮らしのありようが,林野利用とその植生のあり方,さらには動物相にどう現れているかを,広島藩領において具体的に解明することを目的とする。林野の植生を知る史料としては享保10年「御建山御留山野山腰林帳」があり,動物相を知る史料として文化11年「国郡志書出帳」の獣類記載がある。これらを村毎に収集・分析することで研究を進めてきた。 (1)すでに明らかにしていた瀬戸内沿岸地域における林野植生の貧弱化に加えて,動物相においても大型動物を中心にその貧弱化が進展していたことを明らかにした。内陸の多雪地域では,史料上なおクマが見られ,イノシシよりオオカミ(ヤマイヌ含む)が卓越するが,中部ではイノシシが多く,沿岸部ではイノシシも減って,島嶼部では絶滅に近い。これに至る経過を示す一例として,沿岸部における猪鹿垣遺構の調査と築造経過の解明も行った。これらの背景には,沿岸部における人間活動の活発化があり,近世後期における人口・人口密度・耕地開発の進展,さらに西回り航路の発達による流通と諸産業の展開など,上記現象を裏付ける意味でこれを整理し提示した。 (2)一方,内陸中国山地では,主要な産業として膨大な燃料炭を必要とするたたら製鉄がある。島根県絲原家・櫻井家・広島県庄原市西城町など関係史料の調査を行い,幕末期には広島藩領から松江藩領・鳥取藩領へとブナ炭が供給されていることを明らかにした。さらに,この現象の背景に,各藩領におけるたたら製鉄の経営と燃料不足,藩の鉄山政策の相違などの諸事情があることを論じた。 これらは研究成果報告書に取りまとめ,発表論文(既刊・予定)との関係も記しておいた。なお収集史料の一部も翻刻紹介した。
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