研究課題
基盤研究(C)
本研究では、前近代シリアにおける地方史叙述の特徴を明らかにする研究の一環として、13世紀の北シリア地方史の重要な作品であるイブン・アルアディーム著『アレッポ史の探究』を取り上げ、そこに収められた伝記集の情報を分析した。まず、各伝記項目から伝記対象人物の生没時期、経歴などの情報を抽出し、データベース化する作業に取り組んだ。全伝記項目を処理する計画であったが、予想以上に作業に手間取り、約2,100項目の伝記のうち618項目のみデータベース化を終えた。データベース化した情報を分析した結果、同書の伝記項目数は、著者の同時代である13世紀に近づくにつれて単純に増加していくわけではなく、9〜10世紀が12〜13世紀と並んで多いことが判明した。さらに、伝記の対象となった人物の経歴を分析し、時期による伝記対象者の社会的属性の傾向と北シリアをめぐる政治・社会状況の関連を考察した。その結果、たとえば以下のような点が明らかになった。9世紀の項目には特に軍人の伝記が目立つ。その背景として、この時期にシリア辺境をめぐってアッバース朝がビザンツ帝国と軍事衝突を繰り返していたことが指摘できる。一連の戦闘に関与した軍人の伝記が収録され、当該期の伝記項目数を押し上げることにもなった。また、12〜13世紀にはさまざまな分野で活躍するウラマー(学者・知識人)の伝記が急増する。これは、当時シリアを治めていたザンギー朝とアイユーブ朝の下で進められた学院の設立や司法制度の再編などによって、ウラマーの活躍の場が拡大したことの反映とみられる。本研究においては『アレッポ史の探究』に含まれる伝記のうち3割弱について分析したに過ぎないが、同書がイスラーム創始期の7世紀から13世紀に至る北シリアに関する伝記情報を幅広く収め、その情報から各時期の状況を読み取ることができる重要な史料であるということは明らかにし得た。
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