研究概要 |
わが国では,「経営戦略型」サービスに該当する事業所・従業者は,統計の上では決して多くなく,欧米諸国の状況と異なる。これは,わが国特有の取引慣行が,独特のビジネスサービスの地域間フローを形成しているものと考えられる。とりわけ,地方圏における地元企業には,必要性を感じていても需要としてとらえられない「ニーズ・ディマンド・ギャップ」が存在し,このことが,わが国の地方圏におけるビジネスサービス業立地を阻んでいると思われる。そこで,本研究は海外の事例と比較しながらわが国地方圏におけるビジネスサービス業の立地とそのサービスの地域的な取引を解明することを目的とした。 北米においては,本研究で対象とした地方中小都市においても経営コンサルタント企業の立地基盤が確立していることが明らかになった。この背景には、サービスの有償化意識の存在を前提とした,企業経営に関する「知」の形式知化による「商品化」があり,経営者によるこれらサービスの外部化傾向が地方市場において存在し,このことが起因する空間的な需給バランスの存在があるといえる。 一方,わが国では,コスト削減という企業行動と一致した形で労役主体の事業所サービス業が急速に成長してきた。経営戦略構築などに資するビジネスサービスは知識・情報主体のサービスが多く,「費用対効果」が短時間かつ直接的に反映しないことからわが国ではこれらの活動は苦戦を強いられており,とりわけ,この傾向は地方において顕著である。これは,地方における企業経営者の経営革新に対する認識の不足が,知識集約的なビジネスサービスに対する需要を低くするからである。このような状況の根底にあるものは,実体をもたない(intangible)ものに対する有償意識の欠如と経験主義を主軸に据えた経営手法が卓越しているわが国特有の経営者の経営方針・理念であるといえ,とりわけ地方の中小企業経営者にはこの傾向が著しい。
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