研究概要 |
公益環境団体訴訟は,個人の権利利益の侵害の有無にかかわらず,環境利益そのものを守るための訴訟であり,オーフス条約を批准したEUでは,司法アクセス指令案により,広範な公益環境団体訴訟の導入がめざされている。日本では,従来,主にドイツの団体訴訟制度が紹介・分析されてきたが,本研究では,ドイツは,フフノス,オランダ,イタリア等の先進EU諸国の中で,最も団体訴訟を限定してきた国であることが明らかとなった。すなわち,ドイツ以外の国では,自然保護の領域に限らず,環境法規違反の行為について,幅広く団体訴訟の提起が認められており,また,適格団体の要件も,より緩やかである国が多い。 団体訴訟の勝訴率は国によって差があるが,いずれの国においても通常の行政訴訟の勝訴率を上回っており,違法な環境破壊行為の是正・予防機能が高く評価されている。また,取消理由をみると,実体的違法のほか,手続的違法によるものがかなりの割合を占めている国もあり,適正手続の保障が重視されている。とくに,手続的瑕疵があれば,それが結果に影響を及ぼしたか否かにかかわらず,決定自体を取り消す傾向が強まっていることが注目される。 アジアの国々の中では,東アジア地域における団体訴訟の導入が遅れていたが,例えば中国でも,松花江汚染事件をめぐり自然の権利訴訟が提起されるなど,団体訴訟の導入に向けた議論が活発化している。 日本でも,消費者保護の分野において団体訴訟が導入されたものの,諸外国に比べ,適格団体の要件は厳格に定められており,団体訴訟に対する社会的認知度も,未だ高いとはいえない。しかし,先進諸国では,規制緩和と多様なチェックシステムの強化は不可分のものと考えられており,グローバリゼーションの時代において,団体訴訟制度の構築・強化は,日本においても喫緊の課題といえる。
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