研究概要 |
本研究は,昭和30年代に行われた借地・借家法改正作業を再検討する。法務省は,我妻栄特別顧問を中心に昭和31(1956)年5月から借地借家法改正作業を進め,昭和34(1959)年末に「借地借家法改正案要綱試案」を発表した。しかし,これは借地権物権化を提唱したため相当の抵抗があり,昭和37(1962)年からは緊急改正が必要な事項に絞って検討を進め,昭和41(1966)年の借地法等改正に結実した。本研究は,試案での借地権物権化の狙いはどこにあったのか,実現しなかったのは何故か,当時予定された借地借家紛争処理機関にはどのような特徴があったかを明らかにするものである。 これに関して,科研費交付を得て当時の多数の借地借家法草案,関連文書,協議会記録及び当時の反響等の資料整理を行うことができた。その成果として,当時の改正作業の大きな流れを明らかにした論文を発表した(単著・獨協法学64号掲載)。借地権物権化は借地権の譲渡・転貸・抵当を可能にするためであり,その背景としては都市不燃化のための建物建て替えが当時の建設省から要請されていたことにあったこと,また,法務省サイドとしても当時借地借家事件が当時の地裁事件の2割以上を占めたため,簡易な紛争解決制度を要望していたが,実際に非訟制度を大胆に導入することには裁判所の負担が過重にならないかという懸念があったことを資料に基づき明らかにした。これを当時の一般的な土地政策の中に位置づけたのが,著書(共著)としての『日本の土地法--歴史と現状』である。さらに,借地・借家法改正を含めた法制審議会の活動についての論文をカナダ・ラヴァル大学の法律雑誌に投稿した(単著・Les Cahiers de droit46巻1号掲載)。さらに,ジュリストにおける不動産法セミナー〔第15回〕(共著)「震災復興と民事法制」において,昭和30年代の借地借家法改正作業について検討を行い,当時に於いてぎりぎりに至るまでの議論が行われたことを指摘し,情報公開制度の進展している現在では戦後の民事立法における議論を再検討することが現在の立法にも有益であることを指摘した。
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