研究概要 |
ヨーロッパにおける人権保障の重層的な構造の理解を念頭に置きつつ,特に,(1)財産権保障と(2)移民問題を軸に据え,これらのテーマについて考察を進めながら,(3)国際人権条約と国内法の関係についての研究にも取り組んだ。(2)および(3)については,研究期間中は,特にドイツにおける議論が主たる分析の対象となった。これらの問題領域に共通してみてとれるのは,変動するヨーロッパの政治状勢に呼応するかたちで,法制度および解釈も変革を迫られている点である。 (1)ヨーロッパ法における財産権保障 特に欧州人権条約における財産権保障を中心に,その保障の構造を分析した。欧州人権条約における財産権保障規定は,人権裁判所により,3つの規範に分けて審査する方法が用いられたが,その手法は問題を有するものでもあった。人権裁判所は,この分野にあっては条約構成国の裁量を広く認める傾向にあったが,東西冷戦終結後は,旧東側諸国の国民の権利回復のために重要な役割を果たすと同時に,3規範を軸とした解釈の仕方にも変化がみられる。 (2)EUの移民法とドイツ外国人法 ドイツの外国人法は従来,秩序と安全の維持という警察法的性格が強かったが,2005年の移民法により,そうした考え方は大きく変わり,それは何よりも,一定の移民の積極的受入れと,そのドイツ社会への統合をめざすものであった。また,この問題に対するECの権限は,いっそう増大している。現代ヨーロッパにおける移民間題対処に向けての基本的アプローチと,ヨーロッパレベルから国内法レベルにかけての,この問題に対する多面的取組みの一端がみてとれる。 (3)欧州人権条約と国内法 EC法が構成国の法に優先するのに対し,欧州人権条約の国内法における地位は,構成国によって異なる。ドイツの場合,欧州人権条約は,形式的には「単なる法律」としての地位しか与えられていないが,こうした条約自体も,またそれを解釈する欧州人権裁判所の判決も,ドイツにおいてはその尊重が要請されることが,学説および判例の分析を通じて明らかになった。
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