研究概要 |
金融政策の研究には,さまざまなアプローチがある.本研究では,ゲーム理論の立場から,情報の側面に焦点をしぼり,基礎研究と応用研究を行った.本研究で取り扱う情報の側面とは,情報の非対称性と,情報のナイト的不確実性である. 情報の非対称性とは,中央銀行の情報と,民間経済主体の情報とが異なることである.本研究では,情報の非対称性下で,中央銀行のアナウンスメントが実体経済に与える影響を分析するための,シンプルなフレームワークを提供した,情報の非対称性下の金融政策については,ルーカスの先駆的業績が有名だが,ルーカスのモデルでは,中央銀行のアナウンスメントは,予期された貨幣ショックなので,貨幣に対して中立的になってしまい,実体経済には何も影響を与えない.本研究では,より現実的な情報構造を設定することで,中央銀行のアナウンスメントは,貨幣に対して非中立的になることを示した.したがって,ルーカスのモデルの若干の拡張で,中央銀行のアナウンスメントが実体経済に与える影響について分析することが可能となった.また,本研究では,情報の非対称性下の合理的期待均衡の,金融政策への含意について考察した.すなわち,中央銀行が公表する情報には,価格と合理的期待を通じて既に公的情報になっているものと,なっていないものがあり,両者を区別することが重要であることを指摘した. また,本研究では,情報のナイト的不確実性についての基礎研究を行った.ナイト的不確実性とは,将来の事象に対する確率が分からないような不確実性である,将来のリターンが確定していない金融資産を取引する金融市場では,ナイト的不確実性が内在する可能性が高い.したがって,ナイト的不確実性を考慮して金融政策を議論することは重要なはずである.しかし,ナイト的不確実性の基礎理論自体がまだ発展途上であるため,金融政策などへの応用には至っていないのが現状である.本研究では,将来の応用を念頭に,ナイト的不確実性下の意思決定理論,とくにショケ積分期待効用理論について,新しい結果をいくつか得た.
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