研究概要 |
労働市場の理論的分析において,企業間または産業間における賃金決定の順番は従来与件として扱われてきた。現実には,例えば春闘において鉄鋼や自動車などのリーディング産業や大企業が先に賃金相場を形成した後,中小企業が賃金を設定している。 本研究では,このように日本の春闘において見られるような賃金決定の時間差について,どのような条件の下でそのような時間差が生じるかを複占市揚の枠組みを用いて理論分析を行なった。その結果,以下のようなことが明らかになった。 1 賃金交渉の時期の決定権を企業と労働組合のいずれがもっているかに関わらず,extended game of observable delaysにおいて,Profit-sharing企業が先手となり,伝統的利潤最大化企業が後手となるシュタッケルベルク均衡のみが内生的に生じる。 2 大企業,中小企業を生産性の大小で差別化した場合,報酬制度としてProfit-sharing制度を採用している企業を生産性が高い大企業とし,最大化企業を生産性の低い中小企業とみなして分析を行なった。この場合,Profit-sharing企業を先手,利潤最大化企業を後手として賃金決定が行なわれていると想定した分析では,(1)需要ショックの雇用への影響は,逐次的な賃金交渉の場合,Profit-sharing企業の雇用を利潤最大化企業の雇用よりも安定化することが分かった。また,(2)Profit-sharing企業への生産性ショックは,利潤最大化企業の雇用をより安定化することが確認された。 3 報酬制度が異なることによる特徴を明確にするために,国際複占市場での分析に枠組みを適用した場合,利潤最大化企業の存在する国の政府はつねに輸出税(負の輸出補助金)を採用するのに対し,Profit sharing企業の存在する国の政府は輸出補助金政策を採用する可能性がある。
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