研究概要 |
近年,経済の実証分析において,経済サーベイ・データ及び経済パネル・データが盛んに用いられるようになってきた.本研究では,パネル・データに関連した実証分析を行うためのベイズ法の開発を行った.パネル・データに関しては,従来は,標本理論的立場からの研究が中心であった.しかし,ベイズ統計学はデータ生成に関する様々な事前情報をモデルに組み込むことができるため,パネル・データの分析に際して大変有用な道具となると考える. 本研究では,特に,ゼロ支出を含むパネル・データの生成過程をモデル化するとともに,Engel関数体系のベイズモデル及び需要体系の1つであるDeaton and MuellbauerのAlmost Ideal Demand Systemについてベイズモデルを構築した.また,実際の経済データへの応用として,財団法人家計経済研究所が編集している『消費生活に関するパネル調査』のデータを利用して需要体系を推定し,総消費弾力性,価格弾力性,不平等度の推定結果を示した. さらに,Hausman and Taylorの静学的パネルモデルを静学的コーホートモデルとして再定義し,これにデータ生成過程を加えることで,擬似パネルモデルを構築した.また,パラメータの事前情報を加え,マルコフ連鎖モンテカルロ(MCMC)法によるベイズ推定の方法を提案した.さらに,静学モデルを一般的な動学モデルに拡張し,MCMC法によるベイズ推定の方法を考察した.考案したベイズモデルの特徴は,従来の標本理論に基づく擬似パネルモデルの多くの推定方法において必要とした操作変数を必要としない点である.また,適当な操作変数が存在する場合には,その情報も取り入れて推定を行うことも可能となる. 以上の成果を論文の形にまとめ,専門誌に投稿中あるいは投稿準備中である.
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