研究概要 |
本研究による成果は6編の公表論文のとおりである. 第1,2論文では,同質財複占市場で企業が完全補完的な2技術の特許権を一つずつもつとき,特許侵害とそれに対する提訴,訴訟費用,損害賠償などの知財権の行使を考慮してモデルを作り,2企業間に締結可能な実施契約の態様,また実施契約の結果達成される均衡での経済厚生への知財権の行使の影響を分析した.そして,双務的実施契約締結により厚生上望ましい複占均衡が生ずるための,知財権行使の程度による条件を与えた.また,片務的な実施契約締結により望ましくない独占均衡が生じるための十分条件を,知財権行使の程度と原告,被告の訴訟費用により表現した. 第3論文では,独占企業が操業している2輸出国と,財を輸入するのみの1輸入国から成る3国間貿易モデルを考えた.先進国企業が先進国で特許を所有するが,途上国企業はしないとき,実施契約と途上国内での消尽,および途上国企業の特許権侵害とそれに対する先進国企業の訴訟についてゲームモデルで議論し,8つの均衡の存在を示した. 第4論文では,医薬品を貿易取引する二国の市場に,需要の価格弾力性の差異及び外国政府の輸入価格介入による価格差別があるとき,並行輸入が製薬会社の研究開発投資に及ぼす影響について考察した.そして,知的財産制度の変更を通じ並行輸入を認めることは,外国政府の価格交渉力が強く外国の市場の価格弾力性が小さいとき,製薬会社の研究開発投資を促進し並行輸入を禁じたときより外国の消費者余剰を改善することを示した. 第5,6論文では同質財複占市場の企業の特許保有状態ごとに,互いに完全補完的な2技術の特許権の片務的,双務的実施契約締結の可能性を考え,特許侵害,模倣費用,侵害訴訟などの知財権の行使が市場均衡での経済厚生に及ぼす影響を分析し,知財権保護の程度と均衡で結ばれる双務的・片務的実施契約締結と経済厚生の関係を明らかにした.
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