研究概要 |
本研究は通貨危機の発生原因として近年注目されている第三世代モデルにおける「バランス・シート効果」を理論的に詳細に検討し、どのようなメカニズムで通貨危機が発生するか、またその場合の適切な金融政策はいかにあるべきかを分析する目的で行われた。 まず第一世代モデルと第二世代モデルを詳細に検討し、その限界を確認し、ついで第三世代モデルの検討を行った。このモデルには、前の二つのモデルの欠陥・限界を認識した上で、特に金融機関のモラル・ハザード問題、政府保証の救済問題、更に金融機関の脆弱性を指摘するもの、そして企業のバランス・シートの悪化を原因とするものなどがある。 ここではバランス・シート効果が、まず現実の通貨危機の真の原因となっていたかどうかを、ラテンアメリカ6カ国(アルゼンチン、ブラジル、チリー、コロンビア、メキシコ、ペルー)の実証研究を精査することから始めた。データの制約などもあり、結果的には実証は容易ではないことがわかった。 バランス・シート効果がある場合、まず第一に通貨危機が発生する可能性があること、そして第二に、その対策として金融引締めを行うと、それが意図したとおり経済を回復過程に戻すとするorthodox viewと、そうではなく、意図とは反対に経済を更に悪化させるとするperverse viewの、二つの対立する考え方があるが、どのような状況下でそのような可能性があるかを、簡単な異時点間最適化モデルを構築し,実物部門と資産部門の相互作用を検討した。いろいろな外生的ショックにより、為替レートが大幅に減価し、産出量が大幅に低下する危機が発生するケースを明示することができた上に、そのような場合に、金融引締策を採るとperverse viewが主張するような結果が得られる場合のあることを明示することができた。
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