研究概要 |
複雑系経済学や経済物理学と呼ばれる複雑系科学に属する数理社会科学の分野では,社会経済現象の解析に統計力学の手法を用いることにより,数多くの数理モデルが構築されている.しかしながら,統計力学の数学的基礎理論に匹敵するような数学的基礎は,新しい複雑系科学には未だ殆ど存在していない.そこで,数理経済モデルを関数解析学的方法を用いて解析した.EU市場統合のように人口移動と経済成長が相互作用で起きる自己組織化現象を表す数理モデルを構築した.統計力学では,物理学において許容される程度の厳密さでクラマース・モイヤル展開を用いることにより,国際間の人口移動に必要なコストが十分に大きい場合に,人口移動理論におけるマスター方程式の解が,Fokker-Planck方程式の解に非常に近いことを証明した.また,人口移動理論における2つの重要な理論であるWeidlich-Haagの人口移動理論とHotellingの人口移動理論の整合性を数学的に厳密に証明することができた."A geometrical similarity between migration of human population and diffusion of biological particles"において,ある地域の経済的な有利さを表す効用関数がagent密度の線形関数と二次関数との場合について,人口移動現象を記述するAgent-based Modelを構築した.さらに,今までの研究では,クラマース・モイヤル展開の収束の数学的に厳密な証明や高次項の展開が極めて困難で,殆ど有意な結果が得られなかったが,人口移動理論に現れるマスター方程式の解を研究代表者と研究分担者の工夫による有限クラマース・モイヤル展開することにより,人口移動に必要なコストが十分に大きい場合に,Fokker-Planck方程式の解と非常に近いことを証明した.
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