研究概要 |
本研究は,新株予約権発行法制度をはじめとする,企業買収防衛に関連・寄与する諸法制度を法学・経済学両見地から検証した.本研究の期間内の成果は,主に次の2つである. 第1は,日本版ポイズン・ピルの研究である.これは主に研究分担者・家田崇による.新株予約権の法制度は,平成13年度に新設された法制度であるが,ここでは新株予約権を用いた敵対的企業買収への防御策,いわゆる日本版ポイズン・ピルについて研究している.分担者は本件研究に先立ち,日本版ポイズン・ピルは,新規上場の促進など経済効率性に良い影響を与える反面で,会社経営陣に過剰な防御手段を与える可能性があり,厳格な条件をつけなければその発行を認めるべきでないと主張してきた.この研究にもとづき,経済学的観点からの理解をふまえつつ具体的事例に基づいて検証したものである.研究期間中に,ニッポン放送をめぐる企業買収合戦において,ニッポン放送が買収防御策としてフジテレビに新株予約権を発行し,その発行が司法の場で争われた.この新株予約権発行に関する司法判断についても,分担者は分析を加え,知見を公表している. 第2は,より広く企業買収防衛に関連・寄与する諸法制度についての分析である.これは主に研究代表者・飯島裕胤による.経済学的には,新株予約権発行法制度の研究は米国で進展し,すでにおおむね共通の理解が得られている.ここでは1つの発展の方向として,企業買収防衛に関連する法制度全体の中で理解することを目指した.たとえば英国ではポイズン・ピルは認められていないが,その一方でmandatory bid ruleとよばれる,きわめて厳格な企業買収ルールを置いている.対して米国はその逆で,防衛策を認める一方で,企業買収のルールは相対的に緩やかである.いずれの制度がより望ましいのだろうか.また,現在日本はおおむね防衛策を認める方向にあるが,この場合企業買収のルールはどうあるべきだろうか.これらの問題に答えるために,本研究は,企業買収に関わる諸制度の理解を目指し,既存研究では考察されていなかった様相を導入することで,新たな知見を得ている.
|