研究概要 |
金融市揚や個別企業に関するデータを収集し、理論モデルに基づき、計量分析を行った。データには単位根が確認され、また、パネルデータの残差相関も見られた。そこで、こうした推計バイアスを除去した上で分析を進めた。 第1に、売上高の上昇や購入額の減少が、買掛債務に対する売掛債権の比率を押し上げるという結果が得られた。また、銀行貸出が厳しくなると、非製造大企業の買掛債務に対する売掛債権の比率が大きくなり、メルツァー効果と整合的な結果が得られた。また、売り手の機会費用となる利子は売掛債権額に織り込まれている動きとなった。 次に、Hodorick and Prescott(1997,JMCB)フィルターを利用して、日本のGDP成長率のトレンドを分析した。これによると、98年第3・4四半期が最も低迷した時期であった。そこで、推定結果を90年代の低迷期にあてはめると、停滞が金融ショックに因るのは98年に限定され、それ以前では、実物的マイナス要因が働いているという結論に至った。これは、近年、学会で注目されている生産面からのマクロ分析の結果とも一致する。 研究成果は、日本金融学会、日本経済学会、そして、Asia-Pacific Economics Associationで発表を行った。これらで得られたコメントをもとに、データの追加・再推計を行った。特に、企業の資本比率を説明変数に加えると、回帰式の説明力が高まった。こうして、メルツァー効果が、金融市場のマクロ的要因だけでなく企業財務のミクロ的要因も含めて整合的な形で検証出来た。また、ミクロ的非対称性が明らかになり、内外の研究でこの効果の有意性が線型モデルで頑強でないのは、金融環境にたいする各企業の非対称的反応と関係が深いことが明らかになった。現在、論文は、海外のレフェリー付き学術専門誌へ投稿中である。
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