研究概要 |
本研究の目的は,現代社会が直面している2つの重要な課題である環境問題と少子化問題に対処するためのポリシー・デザインを提案することにある.人口が環境に影響を及ぼすことは自明と考えられる一方で,将来の環境水準は,個人の出産選択に影響を与える可能性がある.このような相互作用に着目し,その分析のために環境要因と内生的な出生率を同時に考慮したモデルの構築を行なった.そして,競争均衡と社会最適解における出生率,遺産,環境がいかなる水準に決定されるかを検討するとともに,税・補助金によって,分権的に社会的最適解を達成し得るかどうかを検討した. より具体的には,次のようなモデルを考えた.利他的な親が子の数を選択するとともに子に対する所得移転(遺産)を行う.また,生産を環境悪化要因と考え,遺産および出産数は生産を通じて将来の環境に影響を及ぼすが,親がそれを認識していないため,いずれも環境外部性を持つ. 主な結果は以下のとおりである.第1に,直接的には環境を悪化させる方向に働く排出係数の上昇は,出産数への効果を通じて,むしろ環境を良化させる可能性がある.同様に,養育費の増加は,環境への影響を通じて,むしろ出産数を増加させる可能性がある. 第2に,子を持つことの環境外部性にもかかわらず,社会的最適解と比べて,子の数が過少に選ばれる可能性がある.ただし,子の数が過少であるためには遺産は必ず過剰になっている必要がある.数値分析によれば,親が子の効用に置くウェイトがかなり小さければ子の数は過剰になるが,大きくなるにつれて過少に転じる.一方,環境に関しては,常に社会的最適解よりも低い水準になる. 第3に,子の数および遺産が過剰であるか過少であるかにかかわらず,最適政策は常に正の出産税と資産税を課すこととなり,それによって,分権的に社会的最適解を達成し得る.
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