研究概要 |
アメリカ会計学会(AAA)の財務会計基準委員会は,米国GAAP調整利益と株式リターンの相関関係に焦点を当てた従来の実証研究結果が整合しないことを問題視した。被説明変数の変更によりAAAが指摘した問題点を克服を試みた。検討の結果,Form 20-F調整表の提出は,出来高の増加と有意な関係をもち,米国GAAP調整利益は、本国GAAP利益アナウンス日において提供された情報を上回る増分情報を市場参加者に提供することが示唆された。アナリスト予測の変動係数が,調整表の情報内容を確認する異常出来高の可変性の説明に有意であることが見出された。これによりForm 20-F提出は,アナリスト予測の散布度が大きい企業の期待値の不確実性減少に資すると推定された。 母国市場だけでなく,主要外国証券市場においても資金調達を行うクロス上場外国企業(cross-listed foreign firms)の"国際的"GAAP(US GAAPまたはIAS/IFRS)選択行動を分析し,"国際的"GAAPの適用が財務諸表の情報提供機能を高めるかについて検討した。 より多くの主要外国証券市場において資金を調達しようとする意図をもち,本国GAAPに準拠するよりも統一的情報を提供できる場合に"国際的"GAAPに準拠して作成した財務諸表を提供する傾向が見られた。日本においては米国GAAP適用企業が過半数を占めた。米国GAAP選好は,グローバル・ビジネスにおける米国の影響の大きさを裏付けている。 GAAP2001の調査結果をもとにIAS/IFRSをベンチマークとした各国会計基準の差異指標が,利益予測を提供するアナリストの能力に影響をおよぼすかについて検討した。本国GAAPの"国際的"GAAPとの差異が減少する(あるいは解消される)につれて,アナリスト利益予測の誤差が縮小し,情報提供機能が高まると推計された。これらの検討結果は,IASBとFASBの協調体制のもとでの会計基準収斂活動の重要性を再確認させた。
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