研究概要 |
社会福祉基礎構造改革に伴って強調されている「自己決定の尊重」はまさに、福祉サービス利用者の権利性の問題にかかわっている。しかし、今もって権利擁護理論と実践の間には大きな溝がある。 本研究では,まず,ソーシャルワークにおいて,権利擁護(アドボカシー)が歴史的にどう位置づけられ,権利擁護機能がどう捉えられてきたのかを先行研究をもとに整理した。その上で,現場のソーシャルワーカーでワーキング・グループを組織し、福祉専門職が実際にぶつかる「権利」の問題に関して,インシデント分析を行った。そこで明確になったのは,サービス提供側のシステム、情報、金銭、接遇,法制度,倫理などが権利に大きく影響を与えており,発見,調整,情報収集・提供,代弁・代行・仲介,啓発・教育,コンサルテーション,エンパワーメントというソーシャルワーク機能が抽出された。その結果と照合する目的で、日常業務の中で、権利を意識した状況に関する事例を集積し,分析したが,ソーシャルワーカーの権利擁護機能が所属している機関に大きく影響を受けることが明らかとなった。そこで権利擁護機能が機関のシステムの中でどう発揮されているのかを探るために、第三者評価を取り入れた機関のソーシャルワーカーに対して聞き取り調査を実施した。その結果,ニーズの振り分け,情報の集約と提供,記録開示,広報,苦情対応,退院促進機能,地域との連携促進機能,患者・家族の権利の代弁,仲介機能,プライバシー保護,退院・処遇改善請求への支援,預かり金の適切な契約と管理に関する支援の中での権利擁護機能が見うけられた。具体的には,総合相談機能,ニーズ発見機能,情報提供機能,連携・調整機能,地域ネットワーキング機能,プログラム(サービス)開発機能,地域啓発機能,教育機能,代弁・仲介・代行機能,退院促進マネジメント機能があり,それらは,自己決定過程への支援機能を含むものでもあった。 これらの調査結果から,ソーシャルワークにおける権利擁護機能を理念としてではなく,実践としての整理を行うことができた。しかし,一方で,機関のシステムによって差異のある機能が存在すること,そこにはソーシャルワーカーの裁量の問題やジレンマが存在することも明らかとなった。
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