研究概要 |
本研究は,政治不信が形成される過程で,政治的関心や態度,さらにはパーソナリティ・認知特性のような個人差変数がどのように関与しているのかを大学生を対象として明らかにすることを目的としている.平成16年度においては,まず第1に,個人差変数として注目される政治的自己効力感の概念整理および測定尺度の開発を行った.さらに,第2に,政治不信と政治的自己効力感との関連性について検討したところ,政治的自己効力感のうちで"正当性"因子が政治不信の"政治過程の不透明性"因子に正の有意な影響を,"影響力"因子が"担い手の役割期待違反"因子に負の有意な影響を,また,"無力感"因子は政治不信の構成要素いずれにも負の有意な影響を与えていることが明らかにされた. 平成17年度においては,まず第1に,先に作成された政治的自己効力感尺度の整備を行うための質問紙調査を実施し因子分析を行ったところ,"内的効力感"および"外的効力感"と命名可能な因子が抽出され,類似概念である政治的有効性感覚と一致する構造が得られた.また,第2に,政治的自己効力感の特徴を明らかにするために認知的閉鎖欲求との関連性について検討したところ,"内的効力感"は"決断性"とは正の,"予測可能性への好み"とは負の有意な相関が見られ,内的な政治的自己効力感が高い者の認知様式の特徴の一端が明らかにされた.さらに,第3に改訂された政治的自己効力感尺度を用いて政治不信との関連性についてあらためて検討したところ,外的政治的自己効力感の低さが全般的な政治不信感情を生み出しているとともに,内的政治的自己効力感の高さが"情報の隠蔽"を内容とする政治不信の発生に寄与していることが明らかにされた.政治不信を強く持つ者は,内的効力感が高く,外的効力感が低いグループであり,内的-外的自己効力感がともに高いグループは,政治不信のレベルはそれほど高くはなく,また,政治的関心が最も高かった. 以上から,政治不信の構成要素の相違に応じて政治的自己効力感が寄与する役割が異なることが示され,大学生の政治不信は個人の認知的特性によって影響されていることが明らかとなった.
|