研究概要 |
Festinger(1957)の認知的不協和の理論は、不協和が生じた場合に人はこれを低減すること、および不協和を引き起こすであろう事態や情報を回避することを予測した。一方、認知的不協和を経験した場合であっても,不協和な認知要素が対等な重みをもって両立するように統合的・能動的に処理することにより,知識や信念が質的に変化し,認知的枠組み自体が変容する過程については十分な検討が加えられるには至っていない。そこで本研究は認知的枠組みの変容をもたらす諸条件を明らかにすることを目的として,矛盾する情報あるいは対立する意見に関与する二者間を相対化させること,および対立する二者間の相互依存関係を強化することの効果に着目し,4つの実験を行った。その結果,矛盾する対人情報を処理する際に自己と刺激人物とを相対化させることだけでは矛盾情報を統合化させる効果は見られず(第1実験),これとあわせて相互依存関係が成立していることの重要性が示唆された(第2,3実験)。そして対立する意見をもつ二者間の意見を統合化させることに対して,互いを相対化させることおよび相互依存関係を強化することは交互作用効果を持ち,相互依存関係を強化することにより意見調整を経て両者の意見のずれは小さくなる一方,相互依存関係を強化しない条件において両者を相対化する視点を導入すると,導入しない場合と比べて意見のずれがかえって大きくなること等が明らかになった(第4実験)。これらの結果は,認知的枠組みを再構造化する過程における対人関係の意義を示す。
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