研究概要 |
本研究は,経済学で前提とされる期待効用理論に基づき合理的に行動する人間ではなく,一見すると非合理的に思われる行動を選択する人間の心理機制を,ギャンブリング行動,意思決定,心理的財布,予測の信頼度評価,リスク認知,という多面的な側面から検討し,非合理的行動に潜む「合理性」「有意味性」を考察した。 コンピュータ上で行われたギャンブリング・ゲームにおける意思決定の分析から,ゲームの成績のいかんにかかわらず,満足や喜びを感情として伴う意思決定に関しては,内的に帰属し,一方,後悔を伴う意思決定に関しては,外的に帰属することにより,自己の内的な不快感・不全感を回避しようとしていることが推測された。ただし,仮説として設定していたこの結果とコントロール欲求とのはっきりとした関連は見出せなかった。 クイズ事態における意思決定の実験から,コントロール欲求が強い被験者ほど自分の判断で最終の意思決定をすることが明らかになった。意思決定後の感情については,コントロール欲求の高低に関わらず,後悔の感情については,回答を変更した場合としなかった場合で有意差は見られなかったが,喜びの感情については,自分の回答を変更しなかった場合のほうが強かった。つまり後悔の感情は意思決定の方法による差は見られないが,喜びについては,自分で意思決定を行ったほうが強いことが明らかになった。この結果より,人は意思決定に際して,意思決定結果の正しさ以上に,決定に伴う快感情の獲得にバイアスがかかった非合理的な意思決定をすることが示唆された。 その他,心理的財布,予測の信頼度評価,リスク認知に関する研究から得られた知見を総合して,人はその持てる認知的・行動的資源を最大限に利用して,環境への適応を図ろうとしており,その意味において,非合理的行動も,利用できる資源のもとでの限定的合理性bounded rationalityとして理解可能であることが示唆された。
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