研究概要 |
近年,基本的な計算能力の習得が重視されるようになってきたが,その過程に関しては,十分に明らかにされていないことが多い。そこで,本研究では,計算時における指の利用に着目し,計算と身体性との関連を実験的に検討するとともに,計算時における指の利用の長期的な影響を調べるために,大学生,短期大学生,専門学校生を対象に,計算時にいつまで指を利用していたかを尋ね,算数・数学の自己概念との関連を質問紙により検討した。また,小学校の教師と年長の子どもをもつ保護者を対象に,指の利用やそれに関する指導について調べた。その結果,以下のことが明らかになった。 (1)それぞれの数を指で表すがそれらを数えることなく答える「fingers」や,指を折ったり声にだしたりして数える「カウンティング」が,年少児では難易度が低い課題で,年長児になるにつれ難易度が高くなる課題で使用されていた。 (2)手指の巧緻性と計算能力との間には有意な相関がみられ,この関係は,動作性の発達得点ならびに短期記憶容量の得点を統制しても,変わることがなかった。 (3)計算時に指を使っていた割合は,小学2年生までの間に最も高くなり,その後は徐々に減少するものの,現在も使っている学生が一定数存在した。また,指を利用していた期間が長い群ほど計算や算数の得意な者の割合が低かった。 (4)保護者の70%が,小学校2年生までに指を使わなくなって欲しいと考えており,その理由として,頭を使う必要があるという意見や,2年生でかけ算を習うからといった指の制約に関する意見がみられた。 以上の知見が,認知発達と算数教育の観点から論じられた。
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