研究概要 |
本研究は,子育ての分野で注目されている『勇気づけ』の理論とコミュニケーション技法に焦点を当て,教師の勇気づけ実践が児童の学級適応にどのような影響を及ぼすかを実証的に検討することを目的とした。研究参加者は,公立小学校2年〜5年生,計17学級(実践学級8,統制学級9),470名の児童であった(先行研究で収集したデータを含む)。まず,本研究の趣旨に理解を示し,研究協力を承諾した教師に勇気づけトレーニング(9セッション,計約20時間)を行い,その後各自の学級で2ヶ月間,勇気づけを実践するよう求めた。児童や学級の変容過程を測定するため,実践前,実践中(1ヶ月経過時),および実践後に,学級適応や学級雰囲気,教師期待の認知などを含む質問紙を児童に実施した。なお,以下のデータ処理においては,本来学級単位のデータを用いるべきところであるが,標本数がまだ十分とは言い難いため,児童個人のデータを用いている。 条件(実践学級vs.統制学級)×測定時期(事前vs.実践中vs.事後)の2×3の分散分析の結果,学級雰囲気の「快適」次元で交互作用が有意であり(p<.05),事前では両学級間に差はなかったが,実践中・事後においては実践学級の方が統制学級より有意に得点が高くなっていた(ps<.01)。その他の測度では,有意な交互作用は認められなかった。 勇気づけは,『反映的な聴き方』や『I-メッセージ』を用いて受容的・共感的な態度を示すことで子どもの主体性や自律性を育成する理論と技法であるが,本研究から,この実践が児童の学級適応の一指標に肯定的な影響を及ぼすことが認められ,勇気づけが生徒指導や学級経営に有効であることが示唆された。なお,本研究では,実践学級の抽出児と教師に適宜面接を行い,教師や学級に対する態度構造が肯定的に変容することも見いだされている。
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