研究概要 |
われわれは,ロールシャッハ・テストのデータベース・システムを開発し,540例以上のデータを蓄積した。このデータべースは,標準化研究をはじめとする様々な研究のために整備されている。この研究期間内に,われわれはデータべースを用い,以下の研究を行った。 1.スコアリングの信頼性と妥当性 ロールシャッハ・テストのスコアにおける信頼性・妥当性を,受検者,実施者,第三者によって記号化された同一プロトコルのスコアを比較することによって検証した。その結果,片口法における特殊区分,非生物運動,材質反応において信頼性と妥当性が低いことが示された。この結果を引き起こした原因として,(1)スコアリング・ルールが明確でないこと,(2)受検者の内的体験に対する配慮の足りなさ,(3)スコアラーの思い込み,が考えられた。 2.人間反応にみる精神病理の特徴 ロールシャッハ人間反応と精神病理との関係に焦点を当てた。人間反応を,外面-内面-複合的活動(Takase,2005),active-passive,およびBlattの考えに基づく分節化の観点から分類した。被検者は,53名の不安障害患者,51名の統合失調症患者,12名の境界性人格障害患者,87名の非患者である。結果は,上記のアプローチが3つの精神病理群を鑑別し得ることを示した。 3.平凡反応の再検討 ロールシャッハ平凡反応(P)を検討した。被検者は214名の成人である。われわれは片口のPリストには存在しない,高頻度の反応を見出した(例えばI図全体の動物の顔,IV図全体の怪獣など)。一方,片口のPリストに記載されながらも,頻度の低い内容もあった(例えばVII図D2領域の動物,VI図全体の動物の毛皮など)。この結果は,Pが時代や文化と共に変化することを示すものであった。
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