研究概要 |
本研究では,まず,言語産出過程を支えるタイミング制御機構を探るために,スピーチエラー誘導法を改良した.すなわち,1回限りの発話でエラーを誘導できるような実験手続きを開発した.実験1と2では、語頭が入れ替わるように誘導された刺激では、ほとんどエラーが生起しないが,第2音と第3音,あるいは第3音と第4音、第2音と第4音が入れ替わるように誘導された刺激では多くのエラーが生起することが発見された.これらの結果は,言語産出モデルの系列バイアス仮説によって説明され,言語産出おけるタイミング制御の重要性が示された.続いて,記憶における時間的グルーピング効果と言語産出の関係を検討するために心理学実験を行った.時間的グルーピング効果とは,系列再生課題において,記銘項目の提示を時間的にグルーピングすると(たとえば,9数字からなるリストを3数字ずつのグループとする),グルーピングされない条件よりも再生成績が高くなるという現象である.この効果は,系列再生課題の遂行に作動記憶のタイミング制御機構が関与しているという証拠の1つとしてみなされている.一連の研究では,(1)記銘項目の提示と二次課題遂行のタイミングが不一致の場合に一致の場合と比べて再生成績が低下すること,(2)時間的グルーピングの効果は,一定の時間間隔で運動出力を求められる二次課題遂行時においては消失すこと,このことから,(3)時間的グルーピング効果の背景には,自己生成されたタイミングが利用されていることが明らかとなった.これらの結果から,言語産出のタイミング制御機構の妨害が,時間的グルーピング効果に影響を与えていることが明らかとなり,言語産出と作動記憶におけるタイミング制御機構が共通であることが示唆された.
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