研究概要 |
本研究はラットの時間弁別行動における脳内電気活動を検討することを目的として実験を行った。本研究では時間弁別課題の固定時間間隔(FI)強化スケジュールを基本とするピーク法を中心として用いた。脳内活動の客観的指標として脳内に電極を埋め込み,時間弁別課題遂行中の脳波を直接測定した。 時間弁別行動の分析からラットがオペラントで時間弁別を行うのであれば,動物自らが時間の長さを計りはじめるレバーを押すように訓練すれば,実験者が計測開始の刺激を入れるよりも正確に時間を計れるのではないかと予測してセルフスタート法を用いて検討した。結果はセルフスタートでも自動スタートでも30秒を計測する精度において差は見られず,どちらの手続きであってもラットは30秒近辺に同じようなピークを形成した。 また長短の時間弁別課題遂行中の脳波を同時計測して時間刺激開始の刺激により誘発される電位成分の検討を行った。音刺激の提示によって計時行動が開始し,反応により計時行動が終了する。音刺激に応じた脳内各部位の誘発電位成分(EP)を検討したところ,前頭葉,線条体,視床において後期成分の事象関連電位(ERP)の振幅値に差が見られた。海馬のERPに差は見られなかったが計時中には海馬θ波パワの増大がみられた。海馬θ波が脳活動の指標として利用でき,学習行動との対応からも興味ある結果を得た。海馬θ波は計時行動のみならず移動行動を反映する指標としても用いられる。この点は回転輪走行を用いた研究から明らかとなった。また,海馬は空間知覚との関連で多くの研究が行われているが,本研究の結果から計時行動においても海馬θ波を指標とすれば計時行動について海馬機能の検討ができる可能性を得た。動物を用いた時間弁別行動に関する脳と行動の研究はまだ黎明期である。本研究の結果より時間に関する研究が増えて計時機構の脳内メカニズムが解明されることが期待される。
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