研究概要 |
行動接近法に基づく能動的-受動的対処モデルに対し、ストレス負荷時血行力学的反応パターンをいっそう適切に解釈し得る認知的評価モデルとして、注意-感情モデルを提唱し、これを実証する基礎研究を積み重ねてきた. そのひとつとして、Attention-Affect Check List(AACL)によって算出される注意-感情比、ないし対処コントロール不能感(能動的・受動的対処条件)と血行力学的反応パターンとの関連を検討した.AACLとは、一過性ストレス負荷に直面した被験者で注意、感情およびコントロール不能感などが、どの程度惹起されたかを測る、簡潔な主観的言語報告型の尺度である(Sawada and Tanaka,2004).それぞれの状態を惹起し、かつ分散するよう操作された3つのストレス負荷実験の血行力学的データを、それぞれが比較可能となる血行動態プロフィール(HP_<TPR/CO>)に換算し、AACLによる注意-感情比及びコントロール不能感との関連を調べた.計63名のデータを基に相関分析を行った結果、注意-感情比とHP_<TPR/C>Oとのピアソンの積率相関係数がr=.278(P<.05)であったのに対し、コントロール不能感対HP_<TPR/CO>の相関係数はr=.139(無相関)であった.この結果から、一過性心的ストレス負荷時の血行力学的反応パターンが心臓優位対血管優位のいずれかに傾くかは、能動的-受動的対処モデルと比べて、注意-感情モデルの方でいっそう適切に予測できるといえる. この注意および感情という認知状態は、中枢神経系の評価機構によっている.これに関わる中枢基盤をfMRIにより探索したところ、概して心臓優位反応パターンを惹起しやすい暗算挑戦時に、脳梁下前部帯状皮質での賦活が確認された(x=-140 y=38,z=-14,p<.001).また、この課題実施時に血管優位反応パターンを示す個人は、心臓優位反応パターンを示す個人よりも、前頭前部背内/外側部が有意に賦活した(x=-14,y=26,=40,P<.001).この結果は、注意-感情モデルを支持する.すなわち、注意ないし感情と密接な関連を示す皮質領野が、血圧反応性の下、注意-感情モデルに従って賦活するということである. いずれの実験でも注意-感情モデルを支持する結果を得たことから、研究課題の目的は達成されたものと考える.
|