研究概要 |
記憶における隔たり検出原理とは,記憶における事後情報効果の現象を説明するために提出された原理で,オリジナルの記億への誤った事後情報への影響を説明するために使用される。つまり,オリジナルの出来事が提示され,その後誤った事後情報が提示されると,その誤った情報があたかもオリジナルの出来事には無いにもかかわらず,それがオリジナルの記憶に侵入し,正しい記憶として報告される。この現象はオリジナルの出来事に含まれる情報と事後の誤った情報が,はっきり異なっていると,その両者の隔たりが検出されて,事後情報効果が得られないとされる。しかしながら,この原理が具体的にはどのような条件で働き,どのような結果を生み出すかに関しては系統的検討がほとんどなされてこなかった。 そこで,本研究では,事後情報の対象となる複数の項目をオリジナルの出来事に指定し,それらの項目への情報のインパクトを,事後情報の媒体を変化させることで検討した。また,オリジナルの刺激に含まれるターゲットになる項目に,色彩を含めての検討も行った。結果は,色彩記憶の場合,オリジナルの事象と全く異なるような補色関係にある項目に対する誤った事後情報を提示しても,事後情報効果が得られた。このことは,色彩の記憶では,隔たり検出原理が機能しない可能性を示唆する。しかも,この結果は,成人のみならず,比較的発達段階の初期にある児童においても検出された。さらに,事後情報の媒体を変化させ,ビデオで提示する場合と紙べ一スで提示する場合でも,事後情報効果の大きさ,ターゲットによる変化が認められた。具体的には,紙ベースでの提示で事後情報効果が大きいことが明らかになった。 以上をまとめると,隔たり検出原理は,事後情報の提示が質問紙の形式で与えられる場合には説明としての妥当性があり得るものの,今回の一連の研究のような社会的影響を考慮した場合には,事後情報の確度が強く関与し,隔たりの検出に異なったメカニズムが働く可能性がある。
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