研究課題
基盤研究(C)
本研究は教育改革を左右する重要な要素である「教師の資質能力の向上」をテーマに取り上げ、イギリスの教師教育政策の調査研究を行った。イギリスの教育改革の柱は、一般的に新自由主義の競争原理と中央集権化であるといわれるが、その政策を全体的にみると、競争と支援、集権化と分権化の相反する理念の微妙な組み合わせで成り立っている。教師教育の改革も例外でなくその政策理念が貫かれている。言い換えれば「規制と支援」のバランス政策である。イギリスにおいて教師の資質能力の向上に関与する主な全国的組織として、行政のTraining and Development Agency for School(TDA)、第三者評価機関であるOffice for Standards in Education(OFSTED)、教師の専門家自治組織であるGeneralTeaching Council(GTC)がある。教師に関する中央行政機関であるTDAが、教員資格である正教員資格と教員養成課程のカリキュラムの全国基準を示し、OFSTEDはその実施や現状を悉皆で査察する。OFSTEDの査察結果を基にして、TDAが養成課程の認定、カリキュラム改善、予算の配分を通して教員養成の質を保証する。公立学校の全教師で組織されているGTCは、専門職として必要な倫理綱領の作成とその管理、指導技術を高めるための研修と情報の提供という、教師による「継続的職能開発」を行っている。TDAが作成した正教員資格の基準の冒頭の教職倫理はこのGTC倫理綱領を取り入れている。この3つの組織は、それぞれが角度を変えて相互に連携しながら教師の資質能力の向上を図っている。イギリスの教師の資質能力の向上の政策は、1980年代から始まり現在も進行している教育改革の中で徐々に構築された、教師集団、行政、評価機関の互いに緊張と協力関係で成り立った三角構造で展開されている。
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