研究概要 |
子どもの自発性・主体性を重視する保育においては,遊びを軸とした子どもの生活そのものが保育内容(教育内容)であり,かつての6領域時代の保育実践が活動主義的になった反省を踏まえて現行の5領域は,発達の相互関連性や総合性などから領域のあいまい性を保持したまま,子どもの発達を見る視点と位置づけている。そのため,領域と保育内容そして具体的な活動・教材の考え方の整理が体系的・構造的に十分に行われていないのが現状である。 今回私たちは,フィールド調査に基づいた実践研究を通して保育学(保育内容論)・発達心理学の立場から「保育内容」の再構造化を行うことが保育の質を高めることに対し,なぜ,どのような点で有効性をもちうるのかについて理論的な基礎づけをあたえることを目的として検討を行ってきた。 結果として、次の2点を問題提起した。 1)「子どもの育ち」を「環境とのかかわりの育ち」「人とのかかわりの育ち」「表現の育ち」の3つの軸で複合的に捉える,さらに子どもの育ち(環境とのかかわりの育ち,人とのかかわりの育ち,表現の育ち)を「時間軸」「経験の積み重ねの軸」の2つの軸で2次元的に捉えること。 2)活動(遊び・学び)の深まりを,保育における「環境性」「多様性」「一体性」「表現性」の4原則(無藤,2005)を用いた教材分析の観点からの保育内容を捉える必要がある。 1)においては,個々の子どもの理解とその理解に基づいた子ども育ちを見通した保育の目標(ねらい)の設定につながり,2)においては,その時点での子どもの活動がどのように深まる可能性を持つのかという検討,そしてねらいを達成するための環境の構成の視点,さらにその後の活動および経験のあり方を考え,子どもの活動から出発する教材研究へとつながる。また,保育の質を高めるためには,個々の保育者の力量を高めることが必要であり,保育者自身が課題意識を持つことが必要である。 なお,シンポジウムの開催をきっかけに,研究者,実践者らによるメーリングリスト[educare]が発足し,保育をめぐる情報交換や議論の場とネットワークが生まれている。
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