研究概要 |
本研究の成果は,次の3点である。 第一は,歴史学習における「数量的資料活用の指導法開発」とは歴史授業構成論の開発に他ならないことが明らかになった点である。本研究は当初,諸種の数量的資料の分析を通して歴史理解形成の原理を明らかにし,これに対応した指導法の開発を試みたが,数量的資料にはそれ自体固有の歴史理解形成原理が内包されており,この固有性を活かすには「指導法の開発研究」の次元にとどまるよりも,むしろその原理に立った歴史授業構成論を構築すべきである。 第二は,数量的資料による歴史理解形成の原理と,それを学習指導に活かす有力な視点を,若干ながら解明することができた点である。特に次の二点は重要であると考えられる。 (1)数量的資料は,歴史学習における「有・無」「正・否」など二項選択的思考に対し,「どの程度」という程度的・量的思考をもたらし,より実態に近いとらえ方を促す効果をもっている。この「個物」に対して「程度」でとらえてゆくという歴史理解形成の原理に立脚した歴史授業構成論において,数量的資料が最も中心的な教材として活用される。 (2)数量的資料は,文書資料や絵画資料など歴史学習における他の種類の資料による学習に対し,対立的緊張をもたらすことによってより深化した歴史理解へ発展させる効果をもっている。このことは,数量的資料は決してそれ自体では学習者の歴史理解を完結させるものではなく,他の種類の資料との補完関係の中でその存在意義を発揮することを意味する。 第三は,学校教科教育としての歴史学習として「社会科歴史学習」の方向性が明確化されたことである。本研究では指導法開発の到達点として結局のところ「総合的歴史学習」に帰着することになったが,数量的資料の歴史理解形成原理を活かすにはこの方向が現在のところ最も有力な方向といえる。
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