研究概要 |
数理生物学の人口動態論に由来する,滑らかな有界領域において拡散効果を加味したロジスティック境界値問題,すなわち非線形楕円型境界値問題のパラメータの変化に付随した正値解の存在と挙動を研究した.本研究の成果は以下のとおりである. 1.非線形境界条件のもとでの存在定理:ノイマン境界条件のべき関数型の非線形摂動を表す非線形境界条件のもとで,パラメータの変化に応じた正値解の存在及び多重性を局所分岐理論の立場から示した.クランダル・ラビノビッツの分岐理論,リヤプノフ・シュミット法に基づく有限次元空間における分岐方程式の解析,そして優解劣解を構成する方法により自明解の枝からの分岐解の存在を示した.さらに,制限付き極値問題に帰着させる変分的手法を援用することによって正値解の多重性と無限遠点からの分岐解の存在を示した.他方,領域内部の重み関数に関する上記存在定理の仮定に補完的な条件のもとで,自明解の枝からの分岐解の存在とその方向をクランダル・ラビノビッツの分岐理論に基づいて調べ,タイプの異なる3種の分岐曲線の存在を示した.分岐解の大域的容貌を解明することは今後の研究課題である. 2.非線形境界条件のもとでの非存在定理:境界条件に含まれる係数に関する,先の存在定理における仮定に補完的な条件のもとで正値解の非存在を示した.弱いタイプの優解劣解の構成に基づく存在定理と変分的手法を組み合わせて論じた. 3.線形固有値問題の主固有値の研究:考察対象の非線形ロジスティック境界値問題の線形近似である,符号不定な重み関数をもつ線形固有値問題を,固有値パラメータを境界条件に含むようなロバン型境界条件のもとで考察し,その正値主固有値の存在と一意,さらにその挙動が重み関数にどのように依存するかを研究した.存在と一意性はレイリー商による変分的特徴付けにより与えた.続いて,ノイマン境界条件のもとで正値主固有値を考察して,重み関数による主固有値の漸近挙動,特に発散現象を研究した.正値主固有値のレイリー商による変分的特徴付けを用いて,ディリクレ境界条件における既存の研究結果が並行して成り立たないことを示した.発散のための必要十分条件のより精密な考察,及びロバン型境界条件への拡張は今後の研究課題である.
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