研究概要 |
(1)量子アルゴリズムの研究 計算理論において,NP完全問題を多項式時間で解くアルゴリズムの存在が30年以上前から問われていたが,量子干渉性にカオス力学を加えることにより,この問題を解くアルゴリズムが,OhyaとVolcvichにより見つけだされた.また,2004年度提案された「一般化された量子Turing機械」は,従来においては扱い得なかった問題をも包摂した,より多くの問題に適用可能だと考えられている.昨年度我々は,この理論の基礎を深めることのみならず,さまざまな問題へと適用し,その計算量の厳密な評価を与えた.また,AccardiとOhyaは適応力学(Adaptive Dynamics)を用いた充足可能性問題を解く他の手法を開発しているが,この方法と先の一般化された量子Turing機械との関係を考えることも次の課題である. (2)無限量子カオス系の解析 現在,量子カオスとして広く認識されている研究は,Kicked Rotatorやビリヤード系のように,系が有限系であれば,不確定性原理により量子古典対応は比較的短い時間で消失することや,スカーと呼ばれるエネルギー固有関数の特徴的な振る舞いが見られることなどがGutzwillerらによる半古典近似理論や数値計算などにより知られている.しかしながら本研究では,上記の本質的には有限次元行列であらわされる系をそのままに扱うのではなく,(その結果を念頭に置きながらも,)観測量がなす代数が非同値表現を許すような無限系を主に扱うことを考えている.このような系の性質は幾つかのグループによって調べられており,時間相関関数が完全にdecayするという意味でのmixing propertyが成立することがわかっている.関連した研究として,代表者らにより非可換Dynamical Entropyなどが行われている.本研究における目的は,無限量子カオス系を,情報力学的視点から取り扱い,最近研究代表者らによって古典カオス系の解析に際して採用された,有限系の観測を考慮にいれたカオス尺度を発展させ,量子系のカオスを扱う数理を構築し,非可換Dynamical Entropy等との関連を調べることである.
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