研究概要 |
素粒子物理学の長年の課題であるU(1)問題を解決する、つまり、η、η'疑スカラー中間子質量がπ中間子質量に比べて圧倒的に重い実験事実をQCDから導く問題を、軽いu, d, sクォークの対生成消滅効果を取り入れた近似無し格子QCDの数値シミュレーションによって、調べた。 η、η'質量は、クォークの対生成消滅過程を通してQCDの非自明な位相構造によって大きな質量を獲得する。また、η、η'は、一重項と八重項が混合した状態である。η、η'質量を正しく計算するためには、軽い全てのクォークの対生成消滅効果を取り入れる事が必須である。 本研究では、CP-PACS/JLQCDグループが生成し、フレーバ非一重項ハドロン質量等の研究に用いられた近似無し格子QCD配位の内、最も荒い格子の配位を用いて、η、η'質量の評価を行った。計算の特徴は以下の通りである。1.η、η'質量計算に必要な非結合ダイアグラムをstochastic noise法を用いて評価した。2.伝搬関数からη、η'のシグナルを引き出す為、smearing法を組み合わせた。3.η、η'とオーバラップのあるSU(2)一重項擬スカラー,及びsクォーク擬スカラー演算子の2x2伝搬関数を求め、対角化法によって、混合を解いて質量を決定した。 η質量の結果は0.545(16)GeVで実験値と良く一致し、η'質量は0.871(46)GeVであり、π中間子質量に比べて圧倒的に重く、実験値よりわずか0.1GeV小さいという結果を得た。これらは一つの格子間隔での計算結果であるが、格子QCD計算によってU(1)問題を解決できる事を強く示唆する有望な結果である。近い将来、より細かい格子で同様な計算を遂行し、連続極限でのeta/eta'質量を決定する予定である。
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