研究概要 |
ナノスケールの分極配向が生み出す新しい光機能探索として,前半は主に以下の2種のモデルに対する光学応答の計算を行った. 1.誘起高分子や生体分子に見られる螺旋状の分極配向を想定し、点双極子と近似した一軸性分子がその分極方向を螺旋状に変化させていく一次元鎖に閉じこめられたFrenkel励起子を考察した.この一次元鎖が束となったできた薄膜に対して線形、非線型応答を計算し,(1)量子化準位に対する線形応答の選択則に螺旋形状特有のものが現れ,螺旋ピッチや膜厚に従って変化する,(2)螺旋ピッチと膜厚により,非線形応答の大きさと輻射緩和時間の速さが通常の場合より良く両立する条件が存在する,等のことが明らかになった. 2.光捕集型アンテナ分子に見られる環状分極配向を想定し、点双極子で近似された分子によるナノスケール環状分子が複数個集まった系の光学応答を調べた.その結果,分子配列の端より近接場により非放射モードを励起するすれば,光学的に許容なモードを励起した場合に比べ圧倒的に効率よく反対側にあるプローブヘエネルギー伝達されるなど,この系特有の効果が明らかになった. 後半ではナノスケールな距離を置いて配置された複数量子ドットの電子的準位に共鳴する光を入射した場合を想定し,ドットに誘起される分極偏光の空間構造と,ドット問の力学的相互作用の関係について調べた.その結果,二つのドットを結ぶ直線に垂直に分極を誘起した場合と,平行に誘起した場合とで力の向きが変わり,2原子分子の結合状態,反結合状態に対応する新しいドット間の結合状態を誘起できることが分かった.また,光の入射方向を制御することで,非双極子的な分極パターンを励起でき,ピーク値の大きなカのスペクトルが得られることが分かった.これらの結果は,複数ドットに誘起するナノ分極空間構造によりドット集団に対する光マニピュレーションが可能であることを示すものである.
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