研究概要 |
非線形光学における「非線形性の起源」は,「パウリの排他律」と「励起状態間の相互作用」にある.これらの効果を取り入れて光学非線形感受率を厳密に計算するためには,すべての励起状態を厳密に求めることが必要である.しかし,厳密な励起状態を求めるためには状況に応じた適切な近似を用いるか,有限サイズ系の大規模数値計算に頼らざるを得ない.一方,光学非線形感受率の表式自体は電磁場中の物質系に対する摂動展開から書き下すことができるが,多くの項が互いに相殺される.この相殺項を残したまま計算すると非線形感受率がバルクで発散するという非物理的な結果が導かれ,非線形感受率に対する物質系のサイズ依存性を正しく議論することができない.これまでに石原と張は,簡単なモデルでそのサイズ依存性を詳細に議論した.しかし,通常の感受率の表式では,第一原理的な物質系のハミルトニアンの場合に相殺項を除去することはほとんど不可能である. 本研究課題では,あらかじめ相殺項を除去した(モデルに依存しない)非線形感受率の一般的表式を導出した.この表式を使えば,相殺問題に煩わされることなく,非線形感受率を計算することができる. また,非線形光学応答の舞台として,共振器中の励起子活性媒質にターゲットをしぼった.従来,このような系の非線形応答は半古典的に計算されてきたが,我々は共振器量子電磁力学(QED)が非線形光学応答を調べる上で必須であることを見いだし,これを適用して様々な非線形光学応答を議論した. 1.量子ドットを共振器に埋め込んだ系で,偏光の自由度が無視できる場合と無視できない場合の両方で,巨大な非線形応答を得るための最適化条件を導いた. 2.ハイパーパラメトリック散乱過程による量子井戸および量子ドットからの相関光子対の生成について調べた.両者とも共振器効果により生成効率が非常に増強される.また,生成効率の最適化条件が共振器QEDに特徴的なものであることを明らかにした.
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