研究概要 |
LaCoO_3では、100K近傍でCo^<3+>イオンが低スピン状態(LS, S=0)から中間スピン状態(IS, S=1)へとスピン転移をすることが提案されている。本研究の当初計画は、Jahn-Teller activeなIS状態の軌道状態の解明を目的として、中性子散乱によりフォノン観測をすることであった。中性子散乱実験は平成16年度に終了し,平成17年度は超音波による格子の研究に本研究を発展させた。 中性子散乱による研究では、[δ,^<TM>,^<TM>]方向のフォノンについて、2つのラマン活性モード(O_2 rotationとLavibrationモード)につながる横波光学フォノンはスピン転移後にエネルギー低下と巾の増大を示すこと、この変化は、全BZに広がっているが擬立方晶のR点で最も顕著であること、一方、音響フォノンは、スピン転移の前後でエネルギー、巾ともほとんど変化しないことを明らかにした。 超音波実験では,菱面晶単一ドメインからなる結晶を作製し、[111]方向に伝搬する縦波について、周波数f=10MHzで測定した弾性定数は100K近傍と500K近傍でソフトとなること、150Kより高温では,音速は顕著な周波数依存を示し,f=100MHzでは,500K近傍のソフト化はほとんど観測されないことを明らかにした。スピン転移に伴う格子のソフト化は,スピン状態分布が音圧に応答することにより生じる。音速の周波数分散は,試行頻度186×10^6 s^<-1>,活性化エネルギー11meVの熱活性型の格子緩和があることを示す。この"遅い"格子緩和は、IS状態に軌道秩序が生じた温度領域では、スピン状態分布の音圧に対する応答が軌道秩序の揺らぎの速さ程度に抑制されることに起因する。 本研究の結果、IS状態の軌道秩序の揺らぎが初めて明らかとなり,同時にIS状態が関与するスピン転移は格子と強く結合した現象であることが明らかになった。
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