研究概要 |
本研究の主な目的は,主として応用の観点より近年盛んに研究されている「電流による磁壁移動」やそれに関連した現象について,基礎物理学の観点から微視的な理論を定式化し発展させることであり、以下の成果を得た。 (1)電流に駆動された磁壁のダイナミクスを,磁壁の運動方程式に基づいて詳細に解析した。2つの駆動機構である「スピン移行」と「運動量移行(=カ)」がともに働き,しかもピン止めが存在する場合を詳しく調べ,電流によるピン止め外れの機構を分類し,電流閾値や磁壁の移動速度を求め、実験と比較検討した。 (2)電流が磁化に及ぼす種々のスピントルクを,一般の磁化配置に対して,伝導電子系のスピン緩和の効果をも考慮して微視的に計算する手法を開発した。具体的には,磁化の一様決態からのずれ(変位)が微小な場合に限られる方法(微小振幅の方法)と有限の場合にも適用できる方法(ゲージ場の方法)の定式化を行った。後者は,その単純な適用では減衰項が出てこないという困難があったが,本研究では,電子系のスピン緩和の効果を注意深く扱うことにより正しい結果(少なくとも,微小振幅の方法と一致する結果)が得られることを見出した。その副産物として,磁化の減衰機構について新しい物理的描像を得た。 (3)円盤状の磁性体に形成される磁気渦の,電流に駆動された運動を調べた。また,実験家(京都大学化学研究所小野グループ)およびシミュレーションの専門家(電気通信大学仲谷栄伸教授)との共同研究において,交流電流による磁気渦コアの共鳴励起やコアの反転などを理論的に見出し実験的に観測した。 (4)一様な強磁性状態は大電流のもとで不安定化し,磁壁や磁気渦の自発的生成が起こることを,数値的・解析的に見出した。また,生成した磁気渦対の運動を解析的に調べ,シミュレーションで見られる振る舞いが定性的に理解できることを示した。
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