研究概要 |
第一の成果は,ランタン系高温超伝導体において,これまでストライプを強くピン留めするP4_2/ncm相への構造相転移が全く存在しないと思われていたLSCO(La_<2-x>Sr_xCuO_4)の系において50K以下の低温でP4_2/ncm相に対応するバクリングを反映したNMRスペクトルの明瞭な分裂を初めて観測したことである。特にこれまでx=0.115の試料で報告されている超伝導の弱い阻害及び反強磁性磁気転移はこの局所バクリング構造によるピン留め効果が影響していることがわかった。さらにこのP4_2/ncm相のバクリング角にわずかに磁場依存性があることがわかり,vortexコア等をピン留め中心としてストライプが安定化するという磁場誘起ストライプとの関連を見出した。 次に,ランタン系高温超伝導体のI4/mmm相からBmba相への構造相転移(二次相転移)の臨界現象について興味深い知見が得られたことも本研究の成果である。通常,相転移は秩序変数がゼロから有限値に増加し始めるところを臨界温度と定義する。しかしながら,本系では,散乱実験で求めた臨界温度よりも数十度高温から,NMRピークに分裂が観測され,静的なバクリングが起こり始めていることを示している。これは,二つの臨界温度の間の領域では構造は静的に凍結しているにもかかわらず,空間的にはインコヒーレントな状態が続いている。さらに,このインコヒーレントな状態はグラスのようなランダムなものではなく(もしそうであれば,NMRにはピーク分裂でなくブロードニングとして観測される),はっきりと定まった角度でバクリングしている。通常の平均場的な構造相転移では,ソフトモードの特徴的時間スケールとコヒーレンス長はどちらも温度のべきで,相転移の臨界温度において発散する。しかし本系ではソフトモードの凍結が先に起こり,構造が静的となっても,依然として空間的コヒーレンス長は有限のままという状態が数十Kという広い温度域で続くということになる。このような異常は,深瀬(東北大)らによって1990年頃に,臨界温度より遥かに高い温度からの超音波音速の異常な減少として報告されているが,一体何が起こっているのか十年以上の長い間全く不明であった。NMRと言う局所プローブを純良な単結晶試料に適用できて初めて得られた知見であると言える。
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