研究概要 |
ノンコリニアな磁気構造をもつ強磁性金属に現れる,異常ホール効果の特異な振る舞いの起源について,CrTe_<1-x>Sb_x系を用いて研究を進めてきた。CrTe_<1-x>Sb_xはコリニアな強磁性または反強磁性構造にオーダーした後,さらに低温でキャントした磁気構造へと転移する。焼結体試料で測定されたホール抵抗率ρHには,コリニアな強磁性構造への転移温度以下で符号変化を含む非単調な温度依存性が観測されており,キャント構造への転移との関連が示唆された。期間中の成果は次のとおりである。 1.x=0.3〜0.5の焼結体試料を用い,室温から10Kまで電気抵抗率ρを測定した。x=0.3と0.4の試料については,キャント構造へと転移を起こす温度付近にρの温度依存性の勾配に小さな変化が観測された。測定したすべての試料について,ρは低温に向かって単調に減少する金属的な温度依存性を示し,ホール抵抗率PHで見られたような複雑な温度依存性は観測されなかった。ρHで観測された複雑な温度変化は,非対角伝導率σ_<xy>の温度依存性を反映したものである可能性が高い。 2.主にx=0,3,0.4の組成について単結晶作成を試み,ほぼ成長条件を特定した。しかし現在までのところ,磁気輸送特性の測定に耐えうる良質の単結晶は得られておらず,さらに条件を追い込む必要がある。 3.x=0。3,0.4の粉末試料を用い中性子回折実験を行った。100反射強度から見積もられる強磁性モーメントMの大きさの温度依存性には,キャント構造への転移温度付近で顕著な変化はなく,ρHの複雑な温度依存性はMの温度依存性によるものではないと考えられる。 この結果を用いてモデル計算を実施するプログラム開発を行った。キャント磁気構造で非対角伝導 σ_<xy>を計算できる段階まで到達しておらず,実験で得られた特徴的な変化を再現できるかは,さらに研究を進めて確認する必要がある。
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