研究概要 |
気象庁精密地震観測室(長野県松代)の大坑道の内部では,100m石英管伸縮計による地殻歪みの精密観測が行われている.この観測におけるノイズ源の一つは,坑内のわずかな温度変化による基準尺の伸び縮みである.その温度変化じたいは,気圧の変化に伴って坑内の空気が断熱的に圧縮・膨張することによって起きているらしいと考えられている. 本研究では,坑内で実際に何が起きているかを正確に把握するため,温度・湿度・気圧の連続観測を行った.その結果,次のようなことがわかった. 1.気圧変化と坑内の温度変化との間には非常に高い相関があり,作業などの人工的な擾乱や年周的な変化を除けば,温度変化のほとんどは気圧変化によるものである. 2.気圧変化と温度変化とはほぼ比例するが,その比例係数は周期によって系統的に変わる.周期2時間程度より短い帯域では,比例係数はほぼ一定だが,周期が長くなると小さくなる(温度変化が相対的に小さくなる). 3.坑内の湿度はつねに90%以上あり,年間を通してほとんど変化しない.温度変化に伴って湿度が変化するかどうかについては,観測精度の範囲内では,有意な変化は記録されなかった. 4.上述の短周期での比例係数(0.05K/hPa)は,断熱変化を考えた場合の乾燥大気の理論値0.085K/hPaより,湿潤大気の理論値0.042K/hPaに近い. 5.上述の周期依存性は,断熱変化と周辺の岩石への熱伝導とを考慮した理論モデルによって非常によく説明できる. 以上を総合すると,坑内の温度変化は,気圧の記録から再現が可能であり,精密な気圧観測を温度観測と併用することで高い精度でのノイズ除去が可能になることがわかった.ただ,比例係数が湿潤大気の理論値に近い値をとることなどについては説明できない点が残り,考慮されていない他の効果(坑内の空気の対流,水蒸気の相変化など)の影響があることを予想させる.
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